脳内テレポーテーションによる「あれを取っておけば…」

二つ以上の選択肢があって、どれか一つを選ばないといけない時、どうやら悪い方を選んでしまって「あれを取っておけば…」と思うときはよくあると思います。少なくとも僕はよくあります。

この「あれを取っておけば…」という想像を脳の前帯状皮質(Anterior Cingulate Cortex)がやっているのではないか、というのが以下の論文。
elifesciences.org

我々の脳には”場所細胞"というものがどうやらあって、その細胞には今いる場所が表現されていることがわかっています(発見者はこれで最近ノーベル賞を受賞)。この実験では、まず左右で得られる餌の量が異なるT字迷路をラットに学習させて、その後にT字迷路のどこにラットがいるかを前帯状皮質から読み取ることに成功しました。ただ、どうも餌をもらえる場所で"のみ"場所の読み取り精度が極端に大きい。そこで詳しく見てみると、なんとラットが選ばなかった方の餌の場所に"脳内テレポーテーション"をしている、つまり選ばなかった報酬の場所を想起している、ということを示しました。

これを「あれを取っておけば…」効果だと言うには色々と別の可能性を潰す必要があります。著者らは「報酬の量がテレポーテーション先より低い時ほどテレポーテーションをよくする」等の事実から、このテレポーテーションが「あれを取っておけば…」効果だということを示そうとしています。こういう反省効果が脳のどこに表現されているのか、というのは場所細胞の研究分野を超えて神経科学的に興味深い分野で、それ以外の研究に与える影響も大きそうです。

研究的にはこれを発見した経緯が面白くて、おそらくこれは餌がもらえる場所で場所の同定精度が妙に悪いことに気づいて、偶然わかったのではないかと思います。そのせいで必要なコントロール実験がだいぶ足りなくて、査読者からもそこを指摘されまくっていますし、課題のセッティングもあまり本題と関係ない要素が沢山あります。緻密に理論を立ててその通りの現象を実験で発見するのもいいですが、こういう発見の仕方もいいなと個人的には思います。