情報の抽象化とOFC

現実世界の情報の次元は基本的に無限大で、細かく見ればいくらでも細かく見れます。そんな状態で処理するのは人間どころか機械でも無理なので、人間も機械も、何かしらの情報の取捨削減を日常的に行っています。

そうした情報の取捨削減方法には色々あり、もっとも単純には受け取る情報の範囲を限定することで実現できます。例えば音声だったら周波数を限定したり、画像だったら解像度を下げたり。

ただし、そうした単純な情報削減よりもより一段上のレベルでの情報の取捨削減方法も存在します。いわゆる情報の抽象化がそれにあたり、この抽象化スキルは人間知性の本質的なものの一つであると考えられています。たとえば典型的なIQテストでは、図形同士の抽象的な関係性を素早く適切に発見するスキルが問われています。もっと日常的には、たとえば初めて知り合った相手の全体の印象が極めて一部の特徴、例えば男女であったり文理であったり、ある知識を保持しているかだったり、そうした単純化が(その多くは無意識的に)脳で行われ結果決定されています。

機械学習でも、ある課題に重要な情報の抽象的な表現を得るための技術は一大トピックで、古くは主成分分析や独立成分分析に始まり、最近だとWord2vecなどといった手法が様々な情報の本質的な部分をうまく取り出そうとする技術として活躍しています。

人間の脳は課題にうまく適応するような抽象化をしている

以下の論文は、「人間はそうした情報の抽象化を脳の一番前の方、眼窩前頭皮質(OFC)と呼ばれる部位で行われている」ということを最近盛んに提唱しているグループからのものです。

www.biorxiv.org

実はOFCはこれまで、情報の抽象化というよりも情報の"価値"を表現する部位だと言われてきました。今回の論文は、そうした情報の抽象化と価値表現は排反するものではなくむしろ共存するものであるとの説を主張しています。この論文では、OFCの脳活動を計測中のマウスに対して一定の複雑さを持ったある種の迷路を解かせた時、OFCにおいてその迷路の構造と迷路における各位置の情報の両方が表現されていることを発見しました。

特に重要な発見は、迷路の構造に関する脳表現が、各位置における報酬量との相互作用によって決まっていたということです。ちょっとこれだとわかりにくいですが、要するに目的に合わせた柔軟な次元削減がOFCで行われていることが示唆されています。

機械学習の言葉でこの論文の発見を言い換えると、OFCではSupervised PCAをやっている、あるいはEnd-to-Endでの特徴量獲得をしている、ということになるのかなと思いました。最初に出した人間での男女や文理といった分け方も、人間を判断するのにそうした分け方が有効であると教師ありで学習した結果獲得された抽象的な表現系であるとも考えられます。今はそれが"中傷的な"表現系になり、疑問符が投げられているのは、社会の目的自体が時代とともに変容してきているからでしょう。