「自由エネルギー原理は脳について何を教えてくれるのか?」

脳の統一理論?

認知神経科学界隈でよく知られている理論の一つに、英国UCLのKarl Fristonが提唱している「自由エネルギー原理」というものがあります。ネットで検索すると日本語でも英語でも膨大な説明資料が出てくるわけですが、たとえば以下のようなスライドは導入の助けになると思います。
www.slideshare.net

僕自身は、自由エネルギー原理というタームはたまに見かけるものの(恐れ多くも)たいして真剣に勉強したことも考えたこともありませんでした。

大雑把に「人は日常的(かつ無意識的)に、これまでの経験を踏まえて、今後なにが起きるかを予測して暮らしている。そして、日々の暮らしの中でその予測精度をどんどん上げるように生活している」的なことを言っているんだなぐらいの理解です。こういう内容をオシャレに言い換えると、Predictive Codingとか生成モデルとか順・逆モデルとかいう言葉が出てくるんだと理解してました(間違ってたら指摘してください)。

あと、自由エネルギー原理について語られる時はだいたい「脳は積極的に知らないことを解消したがる」みたいな議論もセットで出てきて(実際に上のスライドもそんな感じ)、それをActive inferenceとか言ってるんだなぐらいの認識もありました。なんだか人間の好奇心とかと関連してそうですし、不確実性解消にボーナスを与えるUCBやThompson samplingっぽさもあるので、こちらも「まあそういうことは有り得そう」ぐらいな認識でした。

自由エネルギー原理は脳について何を教えてくれるのか?

ただ、「自由エネルギー原理」という概念自体が、以上踏まえた性質を全て含むものなのか、そうではなく関連が強そうだからセットで語られているのか、その辺はわりといつもモヤモヤしていました。なんとなく、近いか、含む・含まれる関係にありそうだなというぐらいの理解。

そんなわけで、先週ハーバードの准教授であるGershmanが出した以下のarxiv論文は大変勉強になりました。タイトルは「What does the free energy principle tell us about the brain?」と挑発的です。
arxiv.org
(ちなみにGershmanはComputational Neuroscience界隈だと恐らく今世界トップクラスで勢いがある若手研究者だと思っています。不可解なレベルの生産性の高さで、Twitterも歯に衣着せぬ感じで面白い。)

とても短い論文なので興味のある人は読んでもらえればと思いますが、ここで言っていることを簡単に書くと、「自由エネルギー原理自体はかなり一般的なもの。よくセットで語られるPredictive codingやActive inferenceは一定の仮定が成立した時に初めて生じてくるもので会って、必ずしも自由エネルギー原理からくる必然的な現象ではない」というものでした。出たばかりのプレプリントなので、これが真実かどうかはおいておいて、個人的にはモヤモヤしていた概念の整理にとても役立ちました。最近、学生時代に周囲が取り組んでいた自己主体感(sense of agency)というテーマに興味がわいてきたのですが、その関連でも面白かったです。