良い音楽の秘密

この前ランチで同僚のイギリス人から
「Haruki Murakamiの小説には3ページに一度料理のシーンが出てくるがあれは何なんだ」
と聞かれました。村上春樹の読者にとっては彼の小説の主人公が定期的にパスタを作るのは自然なことであり、逆にイギリス風の冷凍食品を食べるシーンが書かれたりしたら大きな違和感を抱くわけですが、確かに料理シーンの多さを不思議に思うのも理解できます。3ページに一度はだいぶ盛られている気もしますが。

Predictability and uncertainty in the pleasure of music: a reward for learning? | Journal of Neuroscience
そんなコンテンツの好みについての研究が今月JNSに掲載されていて、"わかりそうでわからない"コンテンツ(ここでは音楽)を人は好む、という説を実証したものになります。(知った経緯は以下のNature news)
Why some songs delight the human brain : Research Highlights

音楽を含むどんな芸術作品でも、中程度のわかりにくさの作品が好まれるということが100年前以上から唱えられているようで、数多くの研究があります。なのでこういった研究のポイントは、わかりにくさをどう定義してやるか。この論文の貢献も、音楽のわかりやすさを定量的に定義してやって、その指標と音楽の好みとの関係を検証するための複数の実験をしたことにあります。予想通り、わかりやすさが高すぎず低すぎずの中程度な音楽を人々は実際に好むという結果に。

もう少し具体的に書くと、この論文ではわかりにくさを"意外性"と"自信"の二つに分解しています。二つとも現時点までの曲の流れを踏まえた指標で、一つ目は"次の音がどれぐらい意外だったか"、二つ目は"次の音に関してどれぐらい確かな自信を持っていたか"と書くことができて、どちらも曲を通じて中程度のものが好ましい音楽の特徴のよう。さらに、次の音に対して自信があまりない時に意外性の少ない音が来るような曲も好まれるようです。くだけて書くと、次にどんな音が来るんだろうと不安な時に、今後の流れを予感させるようなわかりやすい音が来てくれると嬉しい、みたいな感じでしょうか。

この説は音楽に限らずストーリーにも当てはまりそうですし、似たようなメソッドで検証もできそうです。スポーツなんかでも当てはまりそうだし、最近強化学習周りでにわかに沸いている好奇心系の研究ともつながりそうです。一方で、これがわかったところで良い音楽や良い脚本が書けるかというと難しそう。人を感動させることの複雑さはもっとずっと深淵にあって、だからこそ世の中のほとんどはヒットせずに終わるのだろうと思います。

YoutubeやAmazonのオススメは現状まだまだですし、だからこそ偶に遭遇する良作探しがやめられません。人は良い音楽や物語を探し求めるものだとおもうのですが、30年生きてきても未だに自分が感動するものの法則がつかめずにいます。ただこの論文にもあるように、自分ならではの予測モデルがあった上での、その予測を少しだけ裏切るようなものに打たれてるというのはある気がします。例えば子供向けの物語ばかり読んでいた小学生時代に初めて推理小説を読んだ時の感覚は今だに思い出せます。あるいはゲーム音楽ばかり聴いてた中学生時代にSquarepusherのIambic 9 Poetryを聴いた時の感覚しかり。一方で初めて村上春樹を読んだ時はその面白さが全くわからなかったですし、今でもこちらで流行ってるポップ・ミュージックにはピンときません。