長尾真先生と指導者と空気感

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長尾真先生とは一度だけお会いしたことがあって、たしか5年前、自分がまだNAISTでD2をしていた時でした。お会いしたのは長尾先生が所長をしていた高等研で開かれた勉強会。2016年当時、なにやら流行っているDeeplearningなるものについて理解を深めるために長尾先生が休日に主宰していた勉強会で、松本研の博士課程の先輩が輪番で発表者をしていました。自分は松本先生の車に乗せてもらって高等研-NAIST間を往復した覚えがあります(先生が足になるって凄いな)。その当時の長尾先生は79歳ですかね。79歳になって、京大総長と国会図書館長を勤めた後に、なにやら流行っている技術を勉強するために、休日に、近所に住む博士課程の学生と勉強会をする。凄まじい。

似たような凄まじさを覚えたのが、その弟子の松本先生。自分が修士1年の時、当時のNLPではDeeplearningはまだ夜明け前でした。講義室でなんで凄いのかよくわからないままDeeplearningの講義を受けていると、前に見慣れた大きい背中を見つけて、それが松本先生でした。普通に学生に混じって一番前の席に座ってて、修士になりたての自分は「なるほど、教授になって沢山業績があっても、興味がある内容であれば修士の学生に混じって講義を受けるものなのか」と素直に思いました。もちろんその後にそんなことをしているシニアな研究者は見たことがないです。

そんな松本研では毎年凄まじい数の自主勉強会が行われていました。有名なOBを多数輩出していることでも知られています。もちろん、長尾先生が松本先生に何かしらの影響を与えたのか、松本先生が松本研にいる人間に影響を与えたのか、あるいはたまたま似た人間が集まったのかはわかりませんが。

また別の話ですが、PFNでインターンした時にも、隣の席に座っている岡野原さんが論文を読みまくっていたのをよく覚えています。そもそも経営が猛烈に忙しいはずなのに。機械学習の論文だけでなくなぜか神経科学の論文を読んでいて、それはまあまだわかると言いたいところですが、なぜか神経科学の”教科書"を英語で読んでいました。お昼に開かれている社内の論文紹介会も、発表者は自由なのになぜか大半の会で発表者は岡野原さん。凄まじすぎるなと思った記憶があります。

博士時代にいた研究室の大ボスから自分はよく、もっと論文を読め、勉強しろと怒られた記憶があります。毎回、周囲の人よりも読んでいるじゃないかと若干反発しそうになりましたが、結局のところ、それを言う大ボスが自分よりもはるかに幅広く論文を読んでいるのを知っていたので聞く気になれたような気がします。

子供を読書家・勉強家にしたかったら、親が読書・勉強をしている姿を見せるのがいいとよく言います。とはいえ彼らは打算ではなく興味関心でやっていたと思うのですが、彼らがああいう人間でなかったらきっと、それぞれの場所に漂っていた、いい感じの空気感はなかった気がします。それにそういう人たちは、アホな自分がアホな話をしにいった時でもいつでもちゃんと話を聞いてくれて、頭から否定せず、楽しそうに長々と話に付き合ってくれた記憶があります。めちゃくちゃアホが相手で、かつめちゃくちゃ忙しいのに。

おそらく自分は普通よりもかなり多種多様な上司、指導者、共同研究者と仕事をしてきたと思うのですが、一番大事なのってこういうところなんじゃないかなと思います。

長尾先生の訃報に触れてそんなことを思い出しました。